爽やかなルックスと卓越した演技力で知られる俳優・山崎賢人さん。
日本を代表する若手俳優として確固たる地位を築いておられます。特に漫画やアニメを原作とした実写化作品での活躍は目覚ましく、「アニメ実写化の成功請負人」と称されるほどです。
しかし、彼の輝かしいキャリアを振り返ると、一時期「原作クラッシャー」という、非常に厳しいレッテルを貼られていた時期がありました。
この記事では、山崎さんがなぜ「原作クラッシャー」と呼ばれてしまったのか、その背景と彼の演技評価がどのように変遷してきたのかを掘り下げ、俳優としての特徴を分析していきます。
「原作クラッシャー」とは? その意味合い

まず、「原作クラッシャー」という言葉の意味について、理解しておく必要があります。
これは主に、漫画や小説などの原作がある作品を映像化する際に、原作が持つ世界観やストーリー、キャラクターのイメージなどを大きく損なってしまったり、原作ファンの期待を著しく裏切る結果を生み出してしまったりするような人物(俳優、監督など)や作品そのものを指して使われることがある、日本のインターネットスラングの一つです。
原作ファンにとって、映像化された作品の再現度が低かったり、キャラクターの魅力が十分に表現されていなかったりすると、その作品や関わった人物が「原作クラッシャー」として批判の対象となることがあります。
特にアニメ実写化は、原作の独特なビジュアルや雰囲気を完全に再現することが本質的に難しいため、このような評価を受けやすい傾向にあると言えるでしょう。
山崎賢人さんがこのレッテルを貼られたのは、主に彼が多くの漫画原作のアニメ実写化作品に出演し、その一部が原作ファンから厳しい反応を受けた時期に端を発しています。
しかし、重要なのは、その後のキャリアを通じて彼はその評価を覆し、実力派俳優としての地位を確立されたという事実です。
「原作クラッシャー」と呼ばれたきっかけ:『ジョジョ』実写化の苦戦

山崎さんが「原作クラッシャー」と呼ばれるようになった直接的な、そして決定的な出来事となったのが、2017年に公開された映画『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』です。
この作品は、言わずと知れた荒木飛呂彦氏による国民的人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』第4部の実写化であり、山崎さんが主人公・東方仗助を演じました。
公開前から大きな注目を集め、続編の製作も視野に入れられていましたが、残念ながら興行収入は約9.7億円にとどまり、興行的には厳しい結果、いわゆる「大コケ」と評される結果となりました。
この興行的な苦戦には、いくつかの要因が絡んでいたようです。
まず、原作が持つ極めて独特な世界観やビジュアル表現を、実写で再現しきることの難しさが指摘されています。
仗助の特徴的な髪型(リーゼント)や、特殊能力である「スタンド」の表現など、制作陣の努力はうかがえましたが、原作ファンからは「仗助らしさが足りない」「ストーリー展開が駆け足すぎる」といった声が上がりました。
また、監督を務めた三池崇史氏による、時に大胆でアクの強い演出スタイルが、原作の持つ独特のトーンや雰囲気と必ずしも合致しなかった、という印象を与えたことも影響したと考えられます。
結果として、主演俳優である山崎さんは批判の矢面に立たされる形となり、「原作クラッシャー」という不名誉なレッテルを貼られることになってしまいました。

当時、インターネット上では「山崎賢人の実写化はもう見たくない」「また彼が原作を壊した」といった辛辣な意見も飛び交い、彼が実写化作品に頻繁に起用されること(「実写多い」というイメージ)が、かえって逆風を招く一因となりました。
この時期、彼はすでに『L♡DK』(2014年)や『オオカミ少女と黒王子』(2016年)といった少女漫画原作の実写化作品で主演を務めており、「実写多い俳優」というイメージが定着していました。
それゆえに、『ジョジョ』の興行的な失敗が、彼個人への批判として集中してしまった側面もあるでしょう。
転機となった『キングダム』:評価の大逆転劇

「原作クラッシャー」という厳しい評価を払拭する大きな転機となったのが、2019年に公開された映画『キングダム』です。
中国の春秋戦国時代を舞台にした原泰久氏の大人気漫画を原作とするこの壮大なスケールの作品で、山崎さんは主人公・信(しん)を見事に演じ切りました。
映画は公開初週から好スタートを切り、最終的に興行収入57億円を超える大ヒットを記録。
批評家からも観客からも高い評価を得ましたが、特筆すべきは原作ファンからの反応でした。「信そのものだ」「山崎賢人以外考えられない」といった絶賛の声が上がり、彼の演技評価は文字通り一気に好転しました。

この成功の背景には、山崎さんの役に対する並々ならぬ取り組みがあったと言えるでしょう。
信というキャラクターを体現するために、過酷なトレーニングと食事制限によって10kgもの減量を行い、激しいアクションシーンでは自ら体を張った迫真の演技を披露しました。
原作の信が持つ、野性味あふれる表情や猪突猛進なキャラクター性を忠実に再現しつつ、そこに彼独自のカリスマ性を加えたものとなっていました。
ファンからは「全身全霊で信というキャラクターを生きていた」「彼の努力の結晶だ」といった声が寄せられ、演技力への信頼が完全に回復しました。
業界関係者の間でも「『キングダム』の大ヒットによって、彼は過去の汚名を完全に晴らした」と評価する声もあり、彼の実写化俳優としての立ち位置が再定義されることとなりました。
演技評価の変遷:ビジュアル先行から実力派俳優へ

山崎さんの演技評価は、彼のキャリアを通じて顕著な変化が見られます。
- 初期(2010年~2015年頃):
デビュー作『熱海の捜査官』(2010年)や初主演映画『管制塔』(2011年)で注目された当初は、やはり「イケメン俳優」として売り出されていました。
NHK連続テレビ小説『まれ』(2015年)への出演や、映画『orange-オレンジ-』(2015年)での爽やかな役柄で広く人気を博した一方で、「ビジュアルが先行している」との指摘もありました。
アニメ実写化作品への出演が増える中で、演技力よりもルックスが強調される傾向にありました。 - 中盤(2016年~2018年):
『ジョジョ』の興行的な苦戦などを経て、演技評価が一時的に揺らいだ時期と言えるでしょう。しかし、2018年に主演したドラマ『グッド・ドクター』で、自閉症スペクトラム障害とサヴァン症候群を持つ小児外科医・新堂湊という難役を演じたことが、大きな転機を迎えることになります。
早口で専門用語が飛び交う長台詞や、独特の挙動を極めて自然に表現し、「役そのものになりきっている」と視聴者から高く称賛されました。
この作品で彼は「演技派」としての確かな一面を見せ、単なるビジュアル先行の俳優ではないことを証明したのです。 - 現在(2019年以降):
『キングダム』での大成功以降、『今際の国のアリス』(2020年~)や『ゴールデンカムイ』(2024年)などで主演を務め、アニメ実写化作品での成功を重ねておられます。
特にNetflixで世界的なヒットを記録した『今際の国のアリス』では、極限状態の中で冷静沈着さを保つ主人公・有栖良平(アリス)を繊細に演じ切り、国際的な演技評価も獲得するに至りました。
「エモい演技」や「感情の抑揚の巧みさ」などが称賛され、実力派俳優としての地位を確固たるものにしました。
山崎賢人の俳優としての特徴:実写化適性と成長力

山崎さんが「原作クラッシャー」という評価から、「アニメ実写化の成功請負人」と呼ばれるに至った、俳優としての特徴を整理すると、以下の点が挙げられるでしょう。
- ビジュアルと再現力:端正な顔立ちと178cmの長身は、多くの漫画キャラクターのイメージに近づけやすいという利点があります。特に『キングダム』の信や『ゴールデンカムイ』の杉元佐一といった役では、原作ファンからも「見た目が完璧に近い」と認められるほどです。
- 演技の柔軟性:恋愛もの(『四月は君の嘘』)、コメディ(『斉木楠雄のΨ難』)、シリアスなドラマ(『グッド・ドクター』)、そしてハードなアクション(『キングダム』)と、非常に幅広いジャンルに対応できる演技の幅を持っています。役ごとに全く異なる表情や動きを見せ、原作のキャラクター性を損なわない点が高く評価されています。
- 努力と身体能力:長年のサッカー経験で培われた優れた運動神経と、役作りに対するストイックなまでの献身性(減量や過酷なアクション練習を厭わない姿勢)が、アニメ実写化作品に求められるリアリティや説得力を高める要因となっています。
- 成長への意欲と吸収力:『ジョジョ』での苦い経験を糧として、演技を真摯に磨き続けてきた姿勢が、その後の演技評価の劇的な変化に繋がったと言えます。時に舞台挨拶などで言葉に詰まる様子など、不器用な一面を指摘する声もありますが、それを補って余りある努力が、作品の質として表れていると言えるでしょう。
なぜ一時期「原作クラッシャー」と評価されたのか? 再考

山崎さんが「原作クラッシャー」と呼ばれた理由を改めて整理すると、以下の点が考えられます。
- 「実写多い」という状況:若手時代からアニメ実写化作品への起用が非常に多かったため、個々の作品の出来不出来に関わらず、興行的に失敗した作品が出ると、その責任や批判が彼個人に集中しやすかった状況がありました。
- 作品自体の問題との混同:『ジョジョ』のケースのように、必ずしも俳優個人の演技の問題だけでなく、監督の演出方針や脚本、VFXのクオリティなど、作品全体として原作ファンとの間に齟齬が生じた場合に、その批判が主演俳優である彼にも向けられた側面がありました。
- 高い期待値の裏返し:人気俳優であるがゆえに、ファンや業界からの期待値が非常に高く、少しのミスやイメージとのずれも、通常以上に大きく取り沙汰されやすかったと言えるでしょう。
しかし、これらは必ずしも彼の演技力そのものの不足を示すものではなく、若手俳優がトップスターへと駆け上がる過程での、キャリア形成期における試練の一つだったと見ることもできるでしょう。
重要なのは、彼がその批判を真摯に受け止め、弛まぬ努力によってその評価を覆していったという事実ですね。
まとめ:山崎賢人の現在地と未来への期待
山崎賢人さんは、「原作クラッシャー」という過去の厳しい評価を乗り越え、今やアニメ実写化作品において最も信頼される俳優の一人へと見事な成長を遂げられました。
その端正なビジュアルだけでなく、役への深い洞察と理解、そして徹底した役作りと努力に裏打ちされた演技力は、多くの原作ファンをも納得させる力を持っていると言えるでしょう。
『キングダム』や『ゴールデンカムイ』といった近年の成功が示すように、彼はまさに「アニメ実写化の帝王」として、日本のエンターテインメント界において欠かせない存在となっています。
今後も『キングダム』シリーズの続編をはじめ、新たな挑戦が控えていることでしょう。
彼の演技評価は、これからもさらに進化していくことが期待されます。一時期の批判をバネに、見事な成長曲線を描いてきた山崎賢人さん。
その軌跡は、俳優としての揺るぎない強さと、無限の可能性を象徴していると言えるでしょう。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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